​明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち/山田詠美  

の中で、もっとも残酷であり、折り合いがつかず、なのに無視を決め込むことも抗うことも困難なもの。そう、家族だ。この小説は、ある家族の壮大な喪失と苦しみの果てに芽生えた再生の物語である。

連れ子再婚同士のパパとママが築く家庭には、第一章の主人公である長女「私」、第二章の次男「おれ」、第三章の次女「あたし」がいる。みんなで新たな幸せを形作ることに夢中になっていた最中、突然、起きてしまう悲劇。そこから家族は、それぞれの想いを胸に押し込んだまま暗く重苦しい道を歩むことになる。

おもしろいのは、第一章から第三章まで主人公が変わって物語が展開すること。最後の第四章は「皆」となる。必要以上に責任感が強く "できる人間" であろうとする長女、母親の愛をひたすら求め続ける次男、自由奔放ながら上のきょうだいを冷静にジャッジする末娘。3人の家族への想いと恋愛模様が交差し、切ない中に、いつも亡き人への愛と微かな希望が漂う、そんなお話だ。

​特に切なかったのは第二章、次男の「おれ」の物語。母親の自分への愛を確認したいおれは、アルコール中毒に陥ったママに献身的に尽くし支えようとする。恋人はずいぶん年上の未亡人。

彼女にはほかの誰にも打ち明けられなかった深い欲求を吐露することができる。安心して緩み身を委ねることができる。そうして記憶を辿りながら、今を、母を、そして自分自身を懸命に取り戻そうと生きる。

きょうだいの中でも特別な存在だった長男を突然失い、すべてを放棄してアル中になったママは、それでも最後まで家族の中心であり、家族全員がその太陽の光を求め続ける。

家族の喪失にはさまざまな形があるけれど、この小説には、決して「お涙ちょうだい」ではないリアルな苦しみと葛藤が描かれている。登場人物たちの体温や涙や、どこにも発散できない苦しみや、愛するがゆえの憎しみが伝わってくる。

この物語は東日本大震災の約一年後に執筆された。1つの死、1つの喪失には、他人が計り知ることのできない確かな絶望がある。そして、それらは長い間、生身の私たちに鎧のように重くのしかかるのだ。そんな果てしない家族の喪失に一筋の光を灯す本作。本当に皆が登場するラストシーンは、まさかまさかの展開。作家らしい温かさに心が震えた。

2020.02 AKi

書籍紹介

​明日死ぬかもしれない自分、

そしてあなたたち

山田詠美 著

第一刷 2015年8月5日

​発行所 幻冬舎文庫

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