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​ビビを見た!/大海 赫  

の世で、一番美しいものって何だろう。それが、読み終えた後、真っ先に頭に浮かんだことだった。「ビビを見た!」は、児童文学作家の大海 赫(おおうみあかし)さんが書き、1974年に理論社から出版された本で、今回手に取ったのは復刻版である。

主人公の男の子・ホタルは生まれつき全盲で、ある日、謎の存在の「7時間だけ目を開けて、おもしろいものを見せてやろう」という声が聞こえてくる。その言葉どおりにホタルは突然、目が見えるようになり、代わりにお母さんや飼い猫をはじめ、目が見えていた町の人々が盲目になってしまう。

そんな中で町には突如、非常事態が起き、人々は避難を余儀なくされる。目の見えるホタルは盲目の人々とともに避難を続け、非常事態の原因を知っていく。そして、緑の少女・ビビ(語源は美々)と出会う。

目が見えるようになった7時間の間に、ホタルは、あらゆるものを見る。それは時に、大人の汚さだったり、弱さだったりもする。それでもそんな大人たちとビビを助けようと懸命に協力するホタル。

7時間が終わり全盲に戻ってしまう前に「見ておかなきゃ」と思っていたものはたくさんあったが、最後の最後に、彼は「世界でいちばんきれいなもの」を見つけるのだ。

私たちは、物理的には多くのものが見えている。ただ、それは「多くを見ている気になっている」だけだということがよくわかる。ホタルは「目が見えるようになること」を望んでなどいなかったし、実際に7時間が経った後、再び盲目になっても「ぼくのこころは、あんがいおちついていた」。

運命を享受し、自らの意思で洞察力、判断力、行動力をつけていた彼だから、たくましく「見える7時間」を生きることができたのだ。緑の少女・ビビは、羽が傷つき、何者かに追われている。自分が逃げ延びるために嘘もつく。そんなビビを、ホタルは、いつしか愛しく思う。

大海さんの作品には「大人が子どもに見せたい世界」ではなく「現実」が描かれている。全然きれいじゃない、混沌として、理不尽で、卑劣な世界。その世界は、まさに今、私たちが生きるこの世界の姿、そのままだ。

ホタルにとってのビビのように、きっと私たちも、大切な人の毛や、額の汗や、一緒に飲む水のグラスの水滴や、そんな一瞬の光を「美しい」と思うのだろう。

大海さんが自ら描いた、胎児で始まり暗闇で終わるイラスト(デザイン)も、心に深く突き刺さる。

2021.07 AKi

書籍紹介

ビビを見た!

大海 赫 作・絵

初 版 2004年2月10日

​発行所 復刊ドットコム

ビビを見た!, 大海 赫, 大海赤赤
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