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​「超ネット社会」で絶対成功する脳と心のつくり方/苫米地英人 

ンピューターに興味がある人も、ない人も、同じ人間である。そしてこの本は、コンピューターと人間の両方の側面をしっかり扱った本である。なので、ネットに興味がある方にも、また人に興味がある方にもお勧めできる。一粒で2度おいしい素晴らしい書籍である。

なぜ、そう言えるのか。ひとつは著者の肩書きのおかげである。著者は、分析哲学や認知心理学の学歴と脱洗脳・コーチングとしての実績がある一方、コンピューター分野においては、脳機能研究(主に人工知能)のほか、カーネギーメロン大学で計算言語学の博士号を習得。以後、インターネット内に侵入したクラッカー(ハッカー)によるクラッキングを阻止するプログラムを政府機関などからの受諾で構築している。そのような人が書いた本だからである。

肩書きが素晴らしいからといって素晴らしい本を書けるわけではないが、そこは、個人的に尊敬する苫米地英人さん。さすがである。まず読みやすい。次に着眼点がおもしろい。そして何より情報量が多い…

本書では、本来人間の脳に備わっている潜在的能力を、テクノロジーの力を借りて簡単に発揮できるようになった社会を「超ネット社会」と呼んでいる。本来、人間の脳に備わっている潜在手的能力とは何か? 本書では「臨場感を感じる力」と言っている。そこで「万人が情報空間に臨場感を感じることができるようになった社会」のこを「超ネット社会」と定義しているのである。

この「情報空間」と「臨場感」を、個人的な解釈で説明すると、物理空間からの感覚刺激を用いる情報ではなく、脳や心がとらえる主観的な判断にもとづく情報(本書では「情報空間」)に対して、その場にいないのに、その場にいるような感覚をもつことができる状態が「臨場感」だ。

物理空間からの情報のほかに「情報空間」の情報に対しても「それが現実」「正しいと思える」と信じ込むことができる臨場感が発達した社会になった、ということである。
 

章立ては

第1章「超ネット社会」の本当の意味

第2章「超ネット社会」を制するもの

第3章「超ネット社会」をどう生きるか

第4章「超ネット社会」を超える生き方

 

第1章では「超ネット社会」を生み出したテクノロジーの本来の役割と意味、第2章では、「超ネット社会」を制するものは「臨場感を高める技術である」ことを説き、第3章では「超ネット社会」における生き方として「情動を排除して、主体性をもつための方法」を伝え、第4章では「超ネット社会」よりさらに次元の高い世界を示し、その世界で暮らす方法を教えてくれている。

 

書を呼んで自分が一番興味と関心を覚えたものは「臨場感」という視点だった。この「臨場感」というものは、素晴らしくもあり危うくもあると思う。

 

その点は、本書においても「テクノロジーの発達によって、人が情報空間に簡単にアクセスして操作でき、そこで臨場感を感じることができるようになったという点においては、脳機能の能力を発揮させるという点から考えると大変素晴らしいことである」と言っている。

 

しかし、情報がより直接的に脳に伝わるようになったおかげで、その情報の影響を受けやくなる(「洗脳」されやすくなる)危険度が高まった、と警告もしている。

 

この「臨場感」というものは、客観的な整合性は必要なく、むしろ主観的な想像性によって生み出されているということだろう。これが何を意味するかと言えば、物理的、論理的な事実より、本人の実感、体感、経験と合致するものが「臨場感」を生み出す根本だということである。

 

また、人は「臨場感」の高い情報に流される特性があるのではないかとも考えてみたのだが、もしその考えがあっていれば、人は本当の意味で主観的・客観的に正しいと考えられる情報より、その時の本人にとって一番重要と思われる基準、あるいは価値観、つまり「本人が臨場感を高く感じる情報」の方を、選択する傾向があると思われる。

 

本書では「臨場感を高める技術」をもっている者が「超ネット社会」を制することができる。と書いてあるが…

 

もし情報を判断する時に「個人が臨場感を感じる情報を優先する」ことが事実なら、人は「正しい情報」より「正しいと思われる情報」を選ぶ傾向がある。また「臨場感」を操作する力を手に入れれば、相手を操作することもできるということだ。極論すれば「よくできた嘘を作り出せる人」が、ネット社会を制する、ということなのかもしれない。

 

余談だが、ユヴァル・ノア・ハラリ氏の著書「サピエンス全史」において人類最初の革命(認知革命)として紹介している「虚構」。これは物理世界における話だが、情報世界において、それに匹敵する革命が「臨場感」ではないかと思えるほど、内容とインパクトは酷似している。

 

このテーマ以外にも、テクノロジーと脳の機能と役割、リアリティの意味、ネット空間の特性などが書かれており、「臨場感」についても「文字情報に対する臨場感」「個人としての臨場感の取り扱い方」「文字情報を超える広くて高くて深い臨場感の世界の話」とまあ盛りだくさんである。

 

しかし、ネットやテクロノロジーを、技術だけでなく、社会・経済・心理・教育・宗教・歴史といった様々な視点と絡めて説明してくれるので雑学本としても楽しめる。小さな動機で手にとったら、大きな感動を手にしていた。そんな一冊ではないだろうか。 GAJIO 2021.07

書籍紹介

「超ネット社会」で絶対成功する脳と心のつくり方

 

脳機能学者・計算言語学者

分析哲学者 苫米地英人 著

第一刷 2010年9月11日

​発行所 PHP研究所

「超ネット社会」で絶対成功する脳と心のつくり方, 苫米地英人
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