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​「イヤな気持ち」を消す技術/苫米地英人 

々の生活において人が「イヤな気持ち」に捉われることは多いと思う。中にはそれがトラウマと呼ばれるほど大きくなり日常生活に支障をきたしてしまう人たちもいる。 本書は、トラウマレベルの手前に当たる方々に向けて書かれている本である(トラウマレベルの人には専門のプロの指導を受けることを勧めている)。

最初に注意しておきたいのは、本書はタイトルから想像するより遥かに刺激の強い本では?ということだ。そのため自分の精神状態をふり返って「自分を理解してほしい」「受け止めてほしい」「言定してほしい」 という願望が、「自々を変えたい」という願望より強いと思われる人にとっては、むしろイヤな気持ちが増す本になるのではないかと推測する。しかし「自分を変えよう」という意識が「自分のことをわかってほしい」という意識に、少しでも勝っている人には、タイトル通りの結果を得る大きな1歩になる良書だ。

参考までに、私が本書を読んでイヤな気持ちになったのは「過去の記憶を娯楽にする」「過去は未来を制約しない」「こだわりを忘れる」。この3つのキーワードだ。改めて考えると、過去に捉われている自分らしいイライラポイントだ。さて、話をもとに戻そう。

「イヤな気持ち」とは、直接的な体験と自我(信念・価値観)によって認識された出来事が、脳と記憶の特性に基づき固定化して増幅された結果、ある一定の認識パターンに変換されて脳内に定着してしまう状態のこと。本書では、この認識パターンを、1つ上の捉え方(前頭前野の介入)で解消する方法を教えている。イヤな気持ちが生まれるきっかけは、直接的な体験と自我である。

 

そこでは本人の直接的な体験に対する「意味づけ」と「重要度」によって、現実を客観的に見られなくしてしまう状態が起きている。イヤな気持ちが育つきっかけは、記憶の特性と脳の認識パターン。そこでは記憶を思い出す際に本人にとって都合よく、もしくは都合悪く記憶を作り変えている。記憶には、次の間違いを犯さないようにするために「失敗体験を記憶する」機能が備わっている。そして脳は、その作られた記憶を決まった認識(考え方・価値観)としてパターン化してしまう。

 

イヤな気持ちを解消するきっかけになるのは脳だ。自我と記憶によって作られた認識パターンを、脳の前頭前野を働かせることで修正していく。そんな状態を作り出すことである。イヤな持ちが生まれる、そもそもの前提条件として ①自分の重要度ではなく他人の重要度で生きている ②自己評価が低い ③社会の希薄な人間関係の影響 について語られていることも興味深い。

 

本書を読むと「気持ち」というデリケートな問題を「単純な理屈で簡単に説明している」という印象を受ける人もいるかもしれない。でも、2度3度と熟読してみると、とても高い視点から中立的・客観的な話をしていることがわかる。実際、著者は東日本大震災が起こった翌月に、精神科医・臨床心理士に対しトラウマ予防のための「クライシスサイコロジー(危機管理心理学)」講議を行っているほどの専門家だ。クライシスサイコロジーについては本書でも触れているのでぜひ参考にしてほしい。

 

ここでは伝えきれないほどの素晴らしい言葉、方法、考え方、メカニズムが、まだまだたくさんあるので興味が湧いた人にはぜひ読んでいただきたい。本書との出会いが、あなたと、あなた以外の誰かの気づき、支え、助けになるかもしれない。

2021.02 GAJIO

書籍紹介

「イヤな気持ち」を消す技術

 

脳機能学者・計算言語学者

分析哲学者 苫米地英人 著

第一刷 2012年11月18日

​発行所 フォレスト出版

イヤな気持ちを消す技術, 苫米地英人
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