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最後の夜


いよいよ引っ越しを明日に控え、最低限、サカ◯さんに怒られないだろう程度の荷造りを終えた。長かった…


ここで過ごした時間は、どの瞬間も心地よく、楽しく、ちょっと大げさに言えば自分の人生にとってかけがえのない貴重な時間の連続だった。


悔しくて涙したことも、嬉しくて涙したことも、起き上がれぬほど落ち込んだこともあったけれど、ここを離れる今となっては、そのどれもがキラキラと輝いて、胸を温かくしてくれる。


静かな住宅街なのに、ある時、毎日のように不審者が現れたり、車だけ事故に遭い、ぶつかって震えるママと子どもたちを助けたり、真夜中に突然、窓のすぐ外にUFOが現れたり。


何気ない毎日の中にいろんなことが起きて、いつも、何だか、おもしろかった。それに、いつも、どんな時も、誰かが助けてくれていた。


友人と何度も囲んだ食卓、夢中になって観た数々の映画。夜中まで語り合い、泣き、笑い、好きなだけ寝て、好きなだけ仕事をした部屋。


いつのまにか流れが変わって、もう、ここを離れることは、ずいぶん前から薄々わかっていた。あともう少し、あともう少し… 大好きな場所、大好きな環境から離れ難くて、そんな気持ちで暮らしていた。


ここでの時間は、宝物だ。

わたしの大切な、時間だった。



…そんなことを思いながら、歯磨きをしていた。ふと、日々お世話になっていた浴室前のガス給湯器が目に入る。


「お湯はり」

「湯量設定」


… そんなボタン、ありました? いや、あったんでしょうね、今、見えてるんだから。


お湯はりは、ずっと自分で(蛇口で)やってましたけど。というか、ボタンに、今、気づきましたけど。


もしや、設定したら「お湯がたまりました」と声で教えてくれたりする機能が付いていらっしゃった? 湯量もそこで設定できるの? それってすごく便利じゃない??


…家の設備は、最初によくよく見ておくべき。いろんなことに気づいた、最後の夜だった。MH



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