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​夢を実現する数学的思考のすべて/苫米地英人 

が生きていく時に必ず行っていることがある。それは、問題に直面し、それを解決する(もしくは見て見ぬフリをする)ことである。

 

巷には問題解決の方法として、マッキンゼーやMECE(ミーシー)などのロジカルシンキング(論理的思考法)に関する本が多数出版されているが、本書はそれらとは一線と画す本だ。まず本書の目的と内容を明確にするために、本文からの引用を2つ紹介したい。

 "数学とは問題を解くための道具ではない。その反対に問題を見つけだすものだ。少なくとも私が学んできた数学はそうだった。"

 "ビジネスとは何か、それはお金を儲けることではなく、他人の問題を解決してあげることだ。では、なぜ人は問題を解決できないのだろうか?それは問題をわかっていないからだ。まず問題を見つけることが大切である。"

本書では問題をどう発見し、どう解決するかについて考察している。言い換えれば、すでに発生した問題に対して、どう分析し、どう解釈するのかではなく、まだ発生していない(もしくはこれから発生するであろう)問題に対して、どうやって見つけ、どう対応していくかに主眼をおいて書かれている。この点が、他の本と一線と画すという意味である。

本書の章立て(目次)を紹介すると

第1章「数学的思考とはなにか?」
第2章「数学とはなにか?」
第3章「幸福を数量化する経済学と数学」
第4章「数学的思考と人工知能」
第5章「プリンシプル(原理原則)とエレガントな解」

第1章・第2章では「問題解決に必要な考え方」について数学や数式の意味、数学的思考と論理的思考の違いなどを、第3章では「問題の発見と解法に必ずともなう不合理性」について、行動経済学の「プロスペクト理論」とコンピューターサイエンスの基本「限定合理性」の考え方を用いて、わかりやく説明している。

第4章では「数学的思考をもつ意義」について、人工知能における「フレーム問題」と「シンギュラリティ問題」などを取り上げ、第5章では「答え(解)を導くために必要なルール」について、プリンシプル、エレガント、自由という3つのキーワードを用いて説明している。

 

本書を読み終えた感想は、問題を発見し解決するには、本書に記されていること以前にもっと基本的な要素「意識」「知識」「認識」が必要になるのではないかということだ。意識がなければ問題を発見しようとも思わないだろうし、知識がなければ問題自体が見えてこない。認識がなければ問題が見えても受け入れを拒否するだろう。

 

問題を発見するということは、ある意味、自分にとって不都合が起きる可能性がある。そのため問題を避けようとすることは、人間の特性の1つであり、そのことは本書においても「損失回避性」と「事なかれ主義」という言葉で書かれている。なので、問題から目を背けようとするのは『人として当然の生理現象』ぐらいの軽い気持ちで、問題と向き合えばよいのではないかと思う。ぜひ本書から問題発見と解決にいたる意識、知識、認識のエッセンスを学び感じとってほしい。

 

私がこの本を読もうと思った最大の理由は「数学が苦手」だからだ。そのため論理的思考ができる人に対して、強い劣等感があったのも事実である。そんな劣等感にまみれた自分の思考状態と、数学的思考の意義との関係性を見事に書き出していた第4章「数学的思考と人工知能」についての要約で、この本の紹介を終わらせたいと思う。

人工知能においては、情報不足ではなく、情報過多がコンピューターのフリーズ状態を起こす原因になるのだが、それは矛盾すると思われる複数の情報処理を、一度に行おうとするために発生してしまう。これは、さまざまな価値観が頭の中で対立することで問題を限定できずに悩み続ける人間と同じ状態。大切なのは、正しい情報を見つけることではなく、問題を見つける(特定する)こと。しかし、そもそも完璧な問題点の特定は不確定性原理により不可能であるため、問題点を絞ること大事であると理解することである。そこで、数学的思考を用いながら、限定合理性を活かしつつ、原理原則を遵守しながらエレガントな解を導きださなければならない。

 

あまりにも自分と人工知能の思考状態が似ているため、おかしくも胸が痛くなる話であり、それ以上に納得のいく味わい深い章だった。

GAJIO 2021.02

書籍紹介

夢を実現する数学的思考のすべて

 

脳機能学者・計算言語学者

分析哲学者 苫米地英人 著

第一刷 2019年2月15日

​発行所 ビジネス社

夢を実現する数学的思考のすべて, 苫米地英人
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